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横浜地方裁判所 平成6年(行ウ)52号 判決 1996年1月31日

原告

有限会社岸茂登

右代表者代表取締役

斉藤清二

原告

合資会社篠崎商事

右代表者無限責任社員

篠崎瑛一

原告

栗田昭二

石川達郎

田中政治

株式会社桐屋

右代表者代表取締役

田島榮二郎

右六名訴訟代理人弁護士

渡辺一成

稲生義隆

被告

神奈川県知事

岡崎洋

右指定代理人

新堀敏彦

外九名

被告

横浜市

右代表者市長

髙秀秀信

右訴訟代理人弁護士

末岡峰雄

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告神奈川県知事が平成六年一〇月四日付けで公告した

1  神奈川県告示第七八二号をもって告示した横浜国際港都建設計画第二種市街地再開発事業戸塚駅西口第一地区第二種市街地再開発事業の都市計画決定

2  神奈川県告示第七八三号をもって告示した横浜国際港都建設計画道路三・三・一九号横浜伊勢原線の都市計画の変更決定

3  神奈川県告示第七八四号をもって告示した横浜国際港都建設計画道路三・四・七号柏尾戸塚線の都市計画の変更決定

をそれぞれ取り消す。

二  被告横浜市が平成六年一〇月四日付けで公告した

1  横浜市告示第二六九号をもって告示した横浜国際港都建設計画高度利用地区計画の変更決定のうち高度利用地区(戸塚駅西口第一地区)にかかる部分

2  横浜市告示第二七〇号をもって告示した横浜国際港都建設計画戸塚駅前地区土地区画整理事業計画の変更決定

をそれぞれ取り消す。

第二  事案の概要

一  本件は、JR戸塚駅西口付近に土地を所有し又は借地権を有する原告らが、被告神奈川県知事のした、右地区の市街地再開発事業に関する都市計画決定及び都市施設(道路)に関する都市計画の変更決定、並びに被告横浜市のした地区計画及び市街地開発事業に関する都市計画の各変更決定は、被告横浜市の地下鉄延長の必要からされたもので、いずれも原告ら関係地域の住民の利害をまったく考慮していないものであって違法であるとして、右都市計画決定又はその変更決定の取消しを求めているのに対し、被告らが、原告らの訴えは、いずれも行政事件訴訟法三条二項所定の「処分」に該当しない処分の取消しを求めるものであって不適法であるなどと抗争している、という事案である。

二  争点

1  原告らの主張

(一) 原告らは、いずれも請求の趣旨一項1記載の都市計画(以下「本件都市計画」といい、その決定を「本件都市計画決定」という。)の施行区域内又は本件都市計画をその一部分として被告横浜市が策定している戸塚駅西口地区市街地再開発事業の計画区域内に土地を所有し、あるいは借地権を有している。

(二) 被告神奈川県知事は、都市計画法一八条一項、二一条二項に基づき本件都市計画決定及び請求の趣旨一項2、3記載の都市計画の変更決定(以下「知事の変更決定」という。)を行い、被告横浜市は、同法二一条二項、一九条一項に基づき請求の趣旨二項1、2記載の都市計画の変更決定(以下「市の変更決定」という。)を行った。

(三) これらの決定は、いずれも相互に関連するが、本件都市計画決定、知事の変更決定及び市の変更決定には、次の違法事由がある。

(1) 本件都市計画の施行区域(被告横浜市が策定中の市街地再開発事業の計画では「Bブロック」と称する。)、その南側に隣接する区域(被告横浜市の右計画では「Aブロック」と称する。)及びその北側に隣接する区域(被告横浜市の右計画では「Cブロック」と称する。)は、昭和三七年三月一三日付け建設省告示第五一二号により土地区画整理事業の施行区域と定められた。その結果、当該施行区域は、三〇年以上にわたり建築制限等の不利益を課せられ、しかも右土地区画整理事業計画を踏まえて土地所有権又は借地権をめぐる法律関係が形成されてきた。

ところが、被告横浜市は、右区域の都市計画を土地区画整理事業から市街地再開発事業に変更した。そのため、右区域の都市計画は、法的のみならず「物理的な姿」でも変更されることになり、被告横浜市の策定した土地区画整理事業計画に則り権利関係を形成した土地所有者及び借地権者の利害はまったく無視されることになった。

(2) 本件都市計画決定は、被告横浜市の地下鉄延長の必要から、前記Bブロックだけを市街地再開発事業の対象として都市計画決定されたものである。被告横浜市は、前記Aブロック及びCブロックについては、地域住民の同意が得られないと考え、Bブロックについてだけ第二種市街地再開発事業を強行しようとする意図でこのような企てをし、後記記載の「戸塚駅西口再開発協議会」を利用するなどしたのである。その結果、Aブロック及びCブロックでは、土地区画整理事業計画だけが残り、土地利用が制限されたまま、被告横浜市が画策する市街地再開発事業も実行されず放置される危険が極めて大きくなった。被告横浜市は、地下鉄延長という自己の都合だけで都市計画法及びその関連法令を利用しただけであり、関係地域住民の利害をまったく顧慮していない。

(3) しかも、被告横浜市は、右変更に際して、当初、地域住民に対し、右再開発事業は第一種市街地再開発事業である旨説明していたが、平成六年四月ころ、突如、これを土地収用法の適用のある第二種市街地再開発事業に変更した。これは、被告横浜市が策定した都市計画が地域住民の一般的な同意を得られないことを自認したものである。

また、被告横浜市は、平成四年四月ころ、請求の趣旨一項2記載の知事の変更決定がされた道路区域にかかる土地所有者等を中心に「戸塚駅西口再開発協議会」(以下「訴外協議会」という。)という任意団体を設立させ、訴外協議会との協議及びその同意をもって、地域住民との協議又は同意がされたと偽装した。すなわち、訴外協議会は、右計画区域内の土地所有者及び借地権者を会員とみなす団体でありながら、その会員資格を有する原告らが設立総会に入場するのを拒否し、役員選出手続をまったくしていないなど、地域住民の意思を反映する団体ではないから、訴外協議会との協議等をもって関係地域住民との協議等がされたとすることはできない。

このように被告横浜市の策定した再開発事業は、地域住民の一般的同意が得られないものである。

(4) このような本件都市計画決定は、土地所有者及び借地権者等の利害を無視し、到底その同意が得られないものであるから違法であり、これに関連する知事の変更決定及び市の各変更決定もまた違法である。

(四) よって、本件都市計画決定、知事の変更決定及び市の変更決定の取消しを求める。

2  被告らの主張

(一) 被告神奈川県知事

(1) 本件は、行政処分の取消訴訟であるから、その対象となるのは行政事件訴訟法三条二項の「処分」でなければならないが、その「処分」とは、公権力の主体たる国又は地方公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものでなければならない。

(2) ところで、市街地再開発事業については、その都市計画は都道府県知事が決定するが(都市計画法一二条一項四号、一五条一項四号、同法施行令一〇条、同法一八条)、右都市計画においては、まず当該事業の種類、名称、施行区域及びその面積等が定められ(同法一二条二項、四項、同法施行令七条、都市再開発法四条一項、五条)、その後、施行者である地方公共団体が市街地再開発事業の施行規程及び事業計画を定める(同法五一条一項)ことになっている。そして、事業計画においては、施行区域及び設計の概要が定められ(同法五三条四項、七条の一一、同法施行規則四条、五条)、更に第一種市街地再開発事業にあっては権利変換の手続が、第二種市街地再開発事業にあっては管理処分が、それぞれ行われる。

(3) また、都市施設である道路に関する都市計画においては、当該道路の種類、名称、位置、区域及び構造等が定められるが(都市計画法一一条二項、同法施行令六条、同施行規則七条一号、二号)、その都市計画道路に関する都市計画の変更は、都道府県知事によって行われ(同法一一条一項一号、一五条一項三号、同法施行令九条二項、同法一八条)、その後、当該道路を都市計画事業として整備する場合には、施行者が都市計画事業の認可を得てこれを行うことになる(同法五九条)。

(4) なお、右(2)、(3)の都市計画においては、その決定段階では、施行者はいまだ定められていない。

(5) ところで、都市計画の決定及び都市計画の変更の効果としては、建築制限(都市計画法五三条ないし五五条)、先買いの対象としての譲渡制限(同法五七条二項、四項)等がある。これらの制限は、将来の都市計画の円滑な実現に向けて、その障害を除去する必要に基づき、法が特に付与した付随的なものであって、この効果は、あたかも新たにそのような制約を課する法令が制定された場合におけると同様、制限された行為を行おうとする具体的意思の有無を問わず、区域内の利害関係人一般に対して生じる効果である。

建築制限については、現実に区域内の土地上に制限を超える建築物を建築しようとする者は、これを阻止する行政庁の具体的処分(建築の不許可処分)をとらえてその取消しを求めることができ、その際、当該処分のもととなった都市計画の決定又はその変更の違法を主張することができるのであるから、権利救済の目的は達せられる。

この手続は、知事の変更決定でも同様である。

(6) このような都市計画の手続及び効果を踏まえると、原告らが取消しを求めている本件都市計画決定及び知事の変更決定は、その後において進展する市街地再開発事業及び道路整備事業の実施に当たって、基本となる事項を定めた基礎的・根本的な指針というべきであり、いまだ一般的抽象的な性質のものにすぎない。

なお、本件都市計画決定及び知事の変更決定によって定められた都市計画を表示するものは総括図、計画図及び計画書である(都市計画法一四条、同法施行規則九条、同附則二項)が、これらを見ても当該市街地再開発事業の施行区域又は都市計画道路の区域内の関係権利者の権利義務等にいかなる変動が生じることになるかが、具体的に定められているものではない。

また、本件都市計画決定及び知事の変更決定のような都市計画の決定又はその変更があったからといって、その後の事業ないし手続が順次機械的に進行するものではない。

(7) 以上のとおり、本件都市計画決定及び知事の変更決定は、たとえ原告らがこれにより当該市街地再開発事業の施行区域又は都市計画道路の区域内とされた土地建物の所有者又は賃借権者等の利害関係人であったとしても、その法律上の地位ないし権利関係に直接影響を与えるような性質のものではないのであり、また、特にその時点で取消訴訟を提起し得ることをうかがわせる法律の規定も存しないから、取消訴訟の対象となる「処分」には該当しない。

したがって、被告神奈川県知事に対する本件都市計画決定及び知事の変更決定の取消しを求める訴えは、不適法である。

(二) 被告横浜市

(1) 本案前の主張

本件は、行政処分の取消しを求める抗告訴訟であり、その対象となるのは個人の権利に、直接具体的な変動を与える行政処分でなければならない。

ところで、都市計画及びその変更決定の手続の一般的概要は、被告神奈川県知事が主張したとおりであるが、横浜市戸塚区内のJR戸塚駅を中心とする区域は、横浜市の副都心として市域南西部の商業・業務の中心となっており、交通の要衝となっているものの、交通広場、幹線道路などの都市基盤が未整備であり、しかも、木造家屋が密集して防災上も危険な状態となっているため、副都心にふさわしい土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新を図るため本件都市計画決定がされ、合わせて、右目的を達成するため高度利用地区の変更や道路の変更等がされたのである。

すなわち、横浜市戸塚区内の戸塚町、吉田町、上倉田町の一部約4.3ヘクタールは、駅前広場は無きに等しく、町中は狭隘な道路を挟んで軒先の低い商店が密集して、通行人等の通行が不自由で防災上も問題があり、しかもJR東海道線及び横須賀線の戸塚駅が設置されているほか、市営地下鉄戸塚駅が新設され、タクシー及びバスが利用されるなど、交通機関が密集しており、しかも、公共建物が一切なく、国道一号線が戸塚駅のすぐそばでJR線と交差しているため、交通が渋滞するなどしている。

そこで、被告横浜市は、右区域について、図面上その施行区域を定め、かつ、右施行区域内における公共施設の配置、規模、建築物の整備、建築敷地の整備などについて、原告ら主張の都市計画を定めた(変更した)のであるが、これは一般的な定めをしたにすぎない。

なお、市の変更決定の結果、施行区域内において建築制限など一定の法的制限が認められることとなるが、これは都市計画決定自体に認められた法的効果ではなく、都市計画の円滑な遂行に対する障害を除去する必要があるため、法律が特に付与した公告に伴う付随的な効果にすぎない。

以上のとおり、市の変更決定は、円滑な都市活動の確保、良好な都市環境の保持を目的とした高度な行政的、技術的裁量によりされた一般的、抽象的な行政計画であり、その内容は、特定の市民に対する直接の具体的な権利義務を定めたものではなく、いわば青写真たる性質を有するにすぎない。

したがって、被告横浜市に対する市の変更決定の取消しを求める訴えは、不適法である。

(2) 本案の主張

市の変更決定は、所定の法律上の手続に従い、円滑な都市活動の確保、良好な都市環境の保持を目的とした高度な行政的、技術的裁量によって進められているものでなんらの違法も認められない。

3  原告らの再反論

被告らは、本件都市計画決定、知事の変更決定及び市の変更決定について、一般的、抽象的処分であり、原告らの法律上の地位ないし権利関係に直接あるいは具体的な影響を与えないとするが、これはあまりに形式的な考えである。

すなわち、被告神奈川県知事は、本件都市計画決定及び知事の変更決定については、いまだ「施行者」が定まっていないとするが、被告横浜市は、既に「施行者」の予定者として地域住民との調整活動をしており、平成四年ころから地域住民による「協議会」を組織して、これとの協議をもって地域住民の同意を得たもののように仮装している。また、被告横浜市は、平成六年にそれまで第一種市街地再開発事業と称していたものを突然第二種市街地再開発事業に変更したが、その後において、被告神奈川県知事が本件都市計画決定をしているのである。このような事実経過に照らせば、被告横浜市は、本件都市計画決定及び知事の変更決定の内容を、既に具体的に決めて、これを施行していることになるから、右「施行者」は定まっているというべきである。

また、個別的処分の争訟においては、その個別的処分の違法が一般的計画自体の違法に由来することもある以上、本件においては、その一般的計画そのものの違法性を争えるというべきである。

第三  争点に対する判断

一  都市の健全な発展と秩序ある整備をするためには、都市における土地利用を合理的なものにする必要があり、そのため土地利用を個人の恣意に委ねることなく適正な制限を課することなどの規制をすることにより、土地利用を計画的に行わねばならない。こうして土地利用の計画を確立するものが土地計画法による都市計画であり(都市計画法一条、二条)、その内容は、①市街化区域及び市街化調整区域、②地域地区、③促進区域、④都市施設、⑤市街地開発事業、⑥市街地開発事業予定区域、⑦地区計画等である(同法七条ないし九条、一〇条、一〇条の二、三、一一条、一二条、一二条の二ないし四)。

二  被告神奈川県知事に対する訴えについて

1  被告神奈川県知事が、都市計画法に基づき本件都市計画決定及び知事の変更決定を行ったことは、当事者間に争いがない。

2  乙一号証、二、三号証の各一、二、四号証、弁論の全趣旨によれば、本件都市計画決定の対象となった区域を含む約21.8ヘクタールの区域は、昭和三七年三月一三日付け建設省告示第五一二号により土地区画整理事業の施行区域とされたこと、その後、被告神奈川県知事は、戸塚駅西口の約4.3ヘクタール部分が、横浜市の副都心として市域南西部の商業・業務の中心地であり、交通の要衝となっているものの、交通広場、幹線道路等の都市基盤が未整備であり、木造家屋が密集して防災上危険な状態であるため、市街地開発事業を施行して、副都心にふさわしい土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新を図ることを目的に、都市再開発法による市街地再開発事業(第二種市街地再開発事業)に関する都市計画(都市計画法一二条一項四号)として、別紙1記載のとおり右約4.3ヘクタール部分について本件都市計画を決定したことが認められる。

また、乙五、六号証、七号証の一、二、一〇号証の一、二によれば、知事の変更決定は、本件都市計画決定に伴い、都市施設である横浜国際港都建設計画道路三・三・一九号横浜伊勢原線及び横浜国際港都建設計画道路三・四・七号柏尾戸塚線に関する従来の都市計画について、別紙2ないし5記載のとおり、その区域・構造を変更したものであることが認められる。

3  右によれば、原告らは、都市再開発法による第二種市街地再開発事業の都市計画決定及び都市施設(道路)に関する都市計画決定の変更決定の取消しを求めるものであり、右各決定は、行政庁である被告神奈川県知事がした処分であるから、その取消しを求める訴えは、行政事件訴訟法三条所定の要件を具備しなければならない。そして、同条二項所定の「処分」とは、公権力の主体たる国又は地方公共団体が法令の規定に基づき行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解すべきである。したがって、右各決定が本件における取消訴訟の対象となるためには、それが個人の法律上の地位ないし権利関係に対し、直接になんらかの影響を及ぼすものであることが必要である。

4  ところで、市街地再開発事業とは、市街地の土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新を図るための建築物及び建物敷地の整備並びに公共施設の整備に関する事業である(都市再開発法二条一号)。

市街地再開発事業は、都市の基本計画である都市計画のうち、市街地開発事業(前記一⑤)のひとつとして位置付けられており(都市計画法一二条一項四号)、都市計画で市街地再開発事業の施行区域とされた区域において都市計画事業として施行されなければならない(都市再開発法二条の二第一項、六条一項、三条の二、都市計画法一二条二項)。

市街地再開発事業については、その都市計画は都道府県知事が決定するが(都市計画法一二条一項四号、一五条一項四号、同法施行令一〇条、同法一八条)、都市計画においては、まず当該事業の種類、名称、施行区域及びその面積等が定められ(同法一二条二項、四項、同法施行令七条、都市再開発法四条一項、五条)、その後、施行者である地方公共団体が市街地再開発事業の施行規程及び事業計画を定める(都市再開発法五一条一項)ことになっている。そして、右事業計画においては、施行地区及び設計の概要等が定められ(同法五三条四項、七条の一一、同法施行規則四条、五条)、更に第一種市街地再開発事業(同法第三章)にあっては権利変換の手続が、第二種市街地再開発事業(同法第四章)にあっては管理処分が、それぞれ行われる。なお、当該都市計画は、総括図、計画図及び計画書によって表示するものとされている(都市計画法一四条一項、同法施行規則九条一項四号、二項、三項、同法附則二項)。

そして、都市計画事業を施行する者(施行者)は、都市計画法五九条の規定により都道府県知事又は建設大臣の認可又は承認を受けた市町村、都道府県、国の機関及びこれら以外の者であるが、右都市計画においては、その決定(変更)の段階では、施行者はいまだ定められていない。

本件都市計画決定は、このような順序で進展することになるから、それに基づく市街地再開発事業は、これを全体としてみると、いずれは施行区域内の土地建物の所有者等の権利に重大な変動をもたらすものといえるが、右決定それ自体としては、特定の地域について都市計画としての市街地再開発事業を施行することを決め、その後進展する手続の基本となる事項を一般的、抽象的に定めるにすぎないものであって、特定の個人を対象としてされるものではなく、個人の法律上の地位又は権利義務に影響を与えるような性質のものではない。

5  次に都市施設としての道路に関する都市計画は、市街化区域及び市街化調整区域の区分、地域地区制等の規制誘導を主体とした都市計画の目的を積極的に実施していく手段として、道路が都市における根幹的、基盤的施設であることから、都市計画の究極的な目標である機能的な都市活動の確保と健康で文化的な都市生活の確保とを目指すものである。

そして、右都市計画については、幅員一六メートル(指定都市の区域の全部又は一部を含む都市計画区域においては二二メートル)以上の道路は、都道府県知事がその都市計画を定めることとされている(都市計画法施行令九条二項一号ロ)。

ところで、都市施設(道路)に関する都市計画においては、まず当該道路の種類、名称、位置、区域、道路の種別及び構造が定められ(都市計画法一一条二項、同法施行令六条一項一号、二項、同施行規則七条一号、二号)、その後、施行者が、その事業の事業計画等を定めることになる(同法五九条、六〇条)。

当該都市計画は、総括図、計画図及び計画書によって表示するものとされている(同法一四条一項、同法施行規則九条一項四号、二項、三項、同法附則二項)。

道路に関する都市計画は、通常、都市計画施設としての道路の整備に関する都市計画事業を予定し、その前提となるものであるところ、右に述べた都市計画の内容からも明らかなとおり、右事業の基礎を一般的、抽象的に定める計画にとどまるものであって、その決定は、直接特定の個人に向けられた具体的な処分ではなく、右計画自体では、当該都市計画施設の区域内の土地所有者等の関係権利者の権利にどのような変動を及ぼすかは具体的に確定されていない。すなわち、右事業の施行の過程において、事業主体、事業手法及び施行時期が確定し、右関係権利者に対して、土地収用等の個別的、具体的な処分がされたときに、はじめて右関係権利者の権利に具体的な変動が及ぶのである。この点は、都道府県知事によって行われる道路に関する都市計画の変更(都市計画法一一条一項一号、一五条一項三号、同法施行令九条二項、同法一八条、二一条)についても、同様である。

なお、右都市計画(変更)においても、その段階では、施行者はいまだ定められていない。

6  右のとおり、これらの都市計画の手続及び効果を踏まえると、原告らが取消しを求めている本件都市計画決定及び知事の変更決定は、その後において進展する市街地再開発事業及び道路整備事業の実施に当たって、基本となる事項を定めた基礎的・根本的な指針というべきであり、いまだ一般的抽象的な性質のものにすぎないというべきである。

すなわち、本件都市計画決定及び知事の変更決定によって定められた都市計画を表示するものは総括図、計画図及び計画書である(都市計画法一四条、同法施行規則九条、同附則二項)が、これらを見ても当該市街地再開発事業の施行区域又は都市計画道路の区域内の関係権利者の権利義務等にいかなる変動が生じることになるか、具体的に定められていない。また、本件都市計画決定及び知事の変更決定のような都市計画の決定又はその変更があったからといって、その後の事業ないし手続が、順次機械的に進行するものではない。

7  また、都市計画の決定及び都市計画の変更の告示がされ、当該都市計画が効力を生ずる(都市計画法二〇条一項)と、その効果として、建築制限(同法五三ないし五五条)、先買いの対象としての譲渡制限(同法五七条二項、四項)等があるが、これらの制限は、将来の都市計画の円滑な実現に向けて、その障害を除去する必要に基づき、法が特に付与した付随的なものであって、この効果は、あたかも新たにそのような制約を課する法令が制定された場合におけると同様、制限された行為を行おうとする者の具体的意思の有無を問わず、区域内の利害関係人一般に対して生じる効果である。

右建築制限については、現実に区域内の土地上に制限を超える建築物を建築しようとする者は、これを阻止する行政庁の具体的処分(建築の不許可処分)をとらえてその取消しを求めることができ、その際、当該処分のもととなった都市計画の決定又はその変更の違法を主張することができるのであるから、権利救済の目的は達せられる。

8 以上のとおり、本件都市計画決定及び知事の変更決定は、たとえ原告らがこれにより当該市街地再開発事業の施行区域又は都市計画道路の区域内とされた土地建物の所有者又は賃借権者等の利害関係人であったとしても、その法律上の地位ないし権利関係に直接影響を与えるような性質のものではないのであり、また、特にその時点で取消訴訟を提起し得ることをうかがわせる法律の規定も存しないから、取消訴訟の対象となる「処分」には該当しない。

したがって、原告らの被告神奈川県知事に対する本件都市計画決定及び知事の変更決定の取消しを求める訴えは、不適法である。

三  被告横浜市に対する訴えについて

1  被告横浜市が、都市計画法に基づき市(地区計画・土地区画整理事業計画)の変更決定を行ったことは、当事者間において争いがない。

2  丙七号証の一ないし四によれば、市の変更決定のうち、横浜国際港都建設計画高度利用地区計画の変更のうち高度利用地区(戸塚駅西口第一地区)にかかる部分の変更決定は、被告神奈川県知事のした戸塚駅西口第一地区第二種市街地再開発事業の決定(本件都市計画決定)に伴い、土地利用の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新を図るため、被告横浜市において、別紙6・7記載のとおり、戸塚駅西口第一地区約4.3ヘクタールを新たに高度利用地区と定めたものである。

次に、丙六号証の一ないし六によれば、市の変更決定のうち、横浜国際港都建設計画戸塚駅前地区土地区画整理事業計画の変更は、被告神奈川県知事のした本件都市計画に伴い、区域の一部を市街地再開発事業に手法を変えて整備する必要が生じたことを理由に、被告横浜市において、別紙8・9記載のとおり、公共施設の配置を定めたものである。

3  右によれば、原告らは、被告横浜市のした、地区計画に関する都市計画の変更決定及び土地区画整理事業に関する都市計画の変更決定の取消しを求めるものである。

ところで、右各決定は、被告横浜市がした処分であるから、その取消しを求める訴えは、行政事件訴訟法三条所定の要件を具備しなければならず、この点は、前記二の3と同様である。

4  市町村の定める地区計画に関する都市計画は、地区レベルの市街地の形成は、主として住民等の開発行為及び建築行為等により行われるが、良好な市街地の環境が形成されるように、開発行為及び建築行為等を適正に誘導し規制する必要があり、しかも国民の高度化、多様化する要求に応えて身の回りの快適さ、都市の美観の創造など総合的な居住環境を形成する地区レベルの計画を都市計画として策定するものである(都市計画法一二条の四第一項一号、一二条の五)。

その都市計画は、都道府県知事の承認を受けたうえ、その旨を告示することにより効力を生じる(同法一九条二項、二〇条一項、三項)が、地区計画は、市町村が決定する都市計画において、当該都市計画区域内の一体として整備及び保全を図るべき区域について、道路、公園等の地区施設、建築物の整備並びに土地利用に関する計画(地区整備計画)を定めるもので、地区整備計画には、地区計画の目的を達成するため必要な地区施設の配置及び規模、建築物の用途・敷地等に関する制限が定められる(同法一二条の四第一項一号、同条の五第一項ないし五項、一五条)。

地区計画が定められると、①地区整備計画が定められた土地の区域について、届け出・勧告制が動き出す(同法五八条の二第一項、三項)、②右区域について、開発許可を得ようとするときは、予定建築物の用途又は開発行為の設計が地区計画の内容に即していなければならないことになる(同法三三条一項五号)、③建築基準法の規定に基づき、地区整備計画の内容として定められたもののうち、建築物の敷地、構造、建築設備又は用途に関する事項を市町村の条例で、これらに関する制限として定めることができることとなり、これに合致しなければ建築確認を受けられなくなる(建築基準法六八条の二)、④地区整備計画に道の配置及び規模が定められると、特定行政庁は当該計画に定められた道の配置に即して道路の位置の指定を行うこととなる(同法六八条の六、四二条一項五号)、⑤地区整備計画に道の配置及び規模が定められると、特定行政庁は一定の要件に該当するものについて、当該計画に定められた道の配置に即して、予定道路の指定を行うことができることとなり、予定道路内には、建築物又は敷地を造成する擁壁は、建築又は築造できなくなる(同法六八条の七、四四条)。

このように、地区計画が定められた場合の法律上の効果は、いずれも地区整備計画が定められた場合に発生することになっており、地区計画が定められただけでは、対象となる土地の所有者等に行為規制が課せられるものではなく、地区整備計画が定められた場合においても、その規制内容は、土地の区画形質の変更、建築物の建築等について市町村長への届け出とそれに対する市町村長の勧告(都市計画法五八条の二)、開発行為の設計が地区整備計画に定められた内容に則しているかの審査(同法三三条一項五号)、建築物の敷地、構造等に関する事項について、地区計画の内容として定められたものを必要に応じて市町村の条例でこれらに関する制限として定めることができる(建築基準法六八条の二)というものにすぎない。

このように、地区計画が定められることにより、直ちに当該区域内の個人に対する具体的な権利義務の変動という法律上の効果を伴うものではなく、また、右条例が定められた場合であっても、その制約は当該地区内の不特定多数の者に対する一般的、抽象的な制約にとどまるものである。

したがって、地区計画が右区域内の個人に対して具体的権利侵害を伴う行政処分であるとはいえない。また、告示により効力が生じた地区計画自体が抗告訴訟の対象となることを当然の前提とするような規定はまったく設けられていない。

5  次に市町村がする土地区画整理事業に関する都市計画は、一定の区域について、地方公共団体等が総合的な計画に基づき、公共施設の整備と宅地又は建築物の整備を合わせ行い、面的な市街地の開発を積極的に図ろうとするものである。そして、右都市計画決定の手続は次のとおりである。

まず、都道府県知事が、都市計画区域を指定した後、市町村(土地区画整理法による土地区画整理事業で施行区域の面積が二〇ヘクタール以下である小規模な土地区画整理事業については、市町村が、その都市計画を定め得る。都市計画法一五条一項四号、同法施行令一〇条一号)が、都市計画の決定をし(都市計画法五条)、これにより土地区画整理事業の名称、施行区域及びその面積、公共施設の配置並び宅地の整備に関する事項を定め(同法一二条二項、三項、同法施行令七条)、その内容を総括図、計画図、計画書によって表示する。

次いで、施行者である市町村は、土地区画整理事業の規準又は規約及び事業計画を決定するが、規準又は規約には土地区画整理事業の名称、都市計画の施行区域内において土地区画整理事業を施行する土地の区域(施行地区)に含まれる地域の名称、土地区画整理事業の範囲、事業所の所在地、費用の分担に関する事項などを定め(土地区画整理法四条、五条)、事業計画には施行地区、設計の概要、事業施行期間及び資金計画を定めるべきものとされ(同法六条)、設計の概要は、設計説明図及び設計図を作成して表示することとされており(同法施行規則六条一項)、設計説明図には、施行地区内の土地の現況、事業施行前後における宅地の合計面積の比率、保留地の予定地積などを定め、設計図は公共施設、鉄道軌道、官公署等の用に供する宅地の位置を現況と比較できるように図示すべきものとされている(同法施行規則六条三項)。そして、事業計画決定を公告(同法五五条九号)した後、土地区画整理審議会への諮問、評価員の意見聴取の各手続を経たうえ(同法五六条ないし六五条)、同法八六条ないし九六条により換地計画を決定し、必要に応じて仮換地を指定し(同法九八条、九九条)、最後に同法一〇三条により換地処分を行って土地区画整理事業が終了する。

したがって、被告横浜市が行う、公共施設である道路、公園及び緑地の配置等の変更である土地区画整理事業に関する都市計画決定(変更決定)は、都市計画法に基づき、都市の健全な発展と秩序ある整備を図ることを目的とする高度の行政的技術的裁量によって、都市計画として施行する土地区画整理事業の大略の指針を定めるにすぎないものであり、右事業の即時実行を意味するものではなく、ただ将来の計画を一般的、抽象的に定めたにとどまるから、その決定がされただけでは、土地区画整理事業の遂行によって施行区域内の土地建物の所有者、賃借人等の権利にいかなる変動を及ぼすかは、具体的に確定されず、右個々人の権利を消滅あるいは変更させる効果を有するものではない。

なお、土地区画整理事業に関する都市計画決定(変更決定)がされると、施行区域内において建築物を建築するためには、原則として都道府県知事の許可が必要とされるようになるが(都市計画法五三条)、それは将来都市計画事業としてされる土地区画整理事業の円滑な遂行を確保するために、法が都市計画決定に特に付与した付随的な効果にとどまるものであって、都市計画決定自体の効果として発生する権利制限ではない。したがって、右都市計画の決定は、直接特定の個人に向けられた具体的な処分ではなく、また、施行区域内の土地建物の所有者、賃借人等の有する権利に対して、具体的な変動を与える行政処分ではない。

6  以上によれば、原告らの被告横浜市に対する市の変更決定の取消しを求める訴えは、不適法である。

四  右によれば原告らの本件訴えは、いずれも不適法であるから、これらをいずれも却下することとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官浅野正樹 裁判官秋武憲一 裁判官今井弘晃)

別紙<省略>

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